国内外の伝統的な祭り、特に大勢の参加者による激しい動きを伴う格闘的な祭事を長年撮影し、2020年に『骨の髄』(新宿書房)として写真集にまとめた甲斐啓二郎。今回の新刊写真集『綺羅の晴れ着』は、日本において数百年以上前から続いていた伝統的な裸祭りである岡山県の西大寺会陽、三重県のざるやぶり神事、群馬県のヤッサ祭りと岩手県の黒石寺蘇民祭を甲斐が5年間かけて取材した作品がおさめられている。
「甲斐啓二郎のレンズを通して現れるのは、ハレの夜の熱気である。古来より続く伝統行事の記録として貴重なことはこの上ないが、この写真集にはそれだけにとどまらない、別の次元があるように思う。それは個と群衆の関係や、撮影という行為にまつわる不可知の領域について考えさせるものである。ひとことで言えば人間の行動を扱うという意味での、人類学的な次元である。」
― 港千尋 (写真家) 写真集寄稿文「闇の奥へ」より
みればわかるが、参加者ははだかである。衣服を脱ぎ捨て、身体の自由を得たはだかの参加者が、咆哮し踊り、汗や体臭を互いに撒き散らし、肉と肉をぶつけ合う。私はその混沌の中に身を投げ出し、がむしゃらに撮影している。その群衆の中にいると、体臭は出どころがわかりにくい分、咆哮する声や汗よりも、妙な存在感があり不気味に感じる。だから、汗で濡れた肌と肌が触れ合い体臭が群衆を覆う時、心地悪さと同時に恐怖心が芽生えてくる。その心地悪さと恐怖心は、そこにいる者の感覚を鋭敏にし、意識や自我が引き剥がされた、わたしであってわたしでない身体を呼び覚ます。社会の中で生きている意味や目的(そんなものが最初からあるのかわからないが)は吹き飛び、野性をむき出しにするのである。
― 甲斐啓二郎(本書あとがきより)
*ポスターカバー付き。カバーはA、B2種あり。
◎プロフィール
甲斐啓二郎
1974年福岡県生まれ。2002年東京綜合写真専門学校を卒業。スポーツという近代的概念が生まれる以前の世界各地で伝統的に行われている格闘的な祭事を、その只中に身を投じながら撮影し、人間の「生」についての本質的な問いに対して写真で肉薄する作品を発表している。2016年Daegu Photo Biennale(韓国)、2018年Taipei Photo(台湾)、2019年Noorderlicht International Photography Festival(オランダ)などの国際展に参加。個展多数。主な出版物に『Shrove Tuesday』(TOTEM POLE PHOTO GALLERY、2013年)、『手負いの熊』(TOTEM POLE PHOTO GALLERY、2016年)、『骨の髄』(新宿書房、2020年)などがある。2016年、写真展「手負いの熊」「骨の髄」で第28回写真の会賞を受賞。2020年に写真集『骨の髄』にて第20回さがみはら写真賞を受賞。2021年、同写真展にて第45回伊奈信男賞を受賞。
著者:甲斐啓二郎
出版元:ZEN FUTO GALLEY
表記:日本語、英語
H364mm×W257mm/52P/2023