絡みに絡みに絡み合った、その姿の一端を垣間見る
断片的な情報を繋ぎ合わせて、その全貌を想像する
今回の特集テーマである「アジア」も「映画」も僕たち編集部にとっては、まだろくに足を踏み入れていない未開の領域だった。その広大さ、奥深さに手を出すことを躊躇していたのだ。機が熟したなんて、とてもじゃないけど言えない。ただ、いずれにせよ、その最初の一歩となる機会を求めていたのは事実である。そして、苦しいながらもなんとかその全貌の一部でもつかめないかと、もがいた制作期間になったと思う。この一冊は私たちがわずかに切り取ることに成功した「映画をテーマにした、アジアの見取り図」であり、そのおすそ分けとなる。
世の中が知らない物ごとで溢れていることは、小学生でも知っているだろう。しかし、僕たちが彼らと違うのは「あまりに知った気になっているものが多い」ということである。特にアジアはその心理的・物理的距離の近さからなんとなく知った気になっているものの代表格ではないか。そんなことを、パンデミックで目まぐるしく情勢が変化する中で感じていた。
一度、知っている(気になった)フォルダに入れたもののほとんどは、その後の人生で出会ったとしても接点を持つことなく手のひらからするりと抜け落ちていく。僕たちはそのことを日常的に知覚することすらできずに暮らしている。そんな当たり前のことを、観たいアジアの映画が配信サービスに存在せず、中古レンタル屋に走るメンバーを見ては思い出した。確かに、隣に存在するはずの文化だが、一つレイヤーが違えば、少し視点が変われば交わらないことがザラにある。
これが「映画の雑誌」であるかは、今でも正直わからない。ただ、純粋に「アジアや、映画のことをもっと知りたい」と感じたときに、朧げながら頭に浮かべた「あったらいいなと思う入り口の一つ」くらいはつくれたのではないかと思う。ただ、先に謝らなければいけないことは、ここまで散々「アジア」と書いてはいるものの、この雑誌で取り扱っている主な範囲は「東・東南アジア(中国を除く)」に限られるということだ。この旅をさらに奥に進めるのであれば、もう一冊分はボリュームが必要であるとの判断から今回は断念をした。その分、一つのトピックでも複数の視点から切り取るよう試みているつもりだ。
実は、3ヶ月ほど前に僕自身が台北に居を移した。暮らしているからこそわかるが、土着的だとか、ノスタルジーだとか、エネルギッシュだとか、そんな言葉でこの土地の営みをパッケージすることはあまりにも陳腐である。アジアを生きる人々は、どうあっても一言で形容できない猥雑な熱気に満ちていて、また都市はそれをすっぽりそのまま覆うような包容力を持つ。ここには紛れもない生がある。真夏なのにろくにTシャツ一つろくに乾かない湿度に嫌になることがあっても、離れがたいのはきっとそんな魔力のせいだ。
OUT OF SIGHT!!! 編集長
堤大樹
******
「ポスターは映画をどう表す? – 想像の余白を生む韓国のデザイン会社propagandaの取り組み」では、loneliness booksでも本やポスターを取り扱っているソウルのデザインスタジオ“propaganda”のチェ・ジウンさん、パク・ドンウさんのインタビューも!さらには奥深い東南アジアの映画の話も満載、すごい情報量、熱量の雑誌です!
******
◎目次
☆ネオン・暗室・ニシキヘビ – In the light that illuminates on Hong Kong
☆2022 アクションの系譜 From Hong Kong To Asia
☆戦後香港の映画にみる、日本イメージ
☆私家版「僕と特撮の10年」 – 断絶していく文脈を再接続する
☆入門編:湿度を探る、アジア映画ヒストリー
1960〜2010年代の映画の潮流
☆映画批評家・夏目深雪に聞く、今語るべき2つのこと
(前編) – アジアの女性映画の見取り図
☆アジア映画の勢力図 – ここ10年の映画産業の変化と、第三国の勃興まで
☆ミニシアターのスタッフや、キュレーターに聞いた
本当に面白かったアジアの映画11選
☆地球空洞説 – The story of a road found in Vietnam
☆トラン・アン・ユン、アピチャッポンのその先へ
– 育て合い、繋がり合う東南アジアの若手映画人たち
☆ヤマクニキョウコの「すごいぞ!フィリピン映画!」
☆A flavor of the movie. – 夏の蜜に染まる蝶
☆モチーフで見る、東南アジア映画
☆アジアンドキュメンタリーズ伴野智に聞く、タブーへの触れ方
☆私たちは、なにを恐れ生きてきたのか?
– 恐怖が写しだすのは、社会の歪みか?それとも、
☆釜山の夏、ソウルの夏
– Two waterside citites in Korea where the seasons come and go
☆韓国映画と男性性、描かれ方とその変遷
☆ポスターは映画をどう表す?
– 想像の余白を生む韓国のデザイン会社propagandaの取り組み
☆BTSが開いた知の扉 – 私が声をあげはじめた理由
☆自分の人生を生きることは、自分を癒すこと
☆人の想いが巡る10日間 – 釜山国際映画祭が生み出す映画との身近さ
☆『山形国際ドキュメンタリー映画祭』にみる
– 映画がローカリティに育つまで
☆現実と非現実の境目 – アニメーションが接続するめくるめく今敏の世界
☆映画をこの街のインフラにするために
– 下北沢最後の1ピース、シモキタ – エキマエ – シネマ〈K2〉
☆ビジネスとカルチャーの狭間で
– 京都の映画撮影所は、なぜ今チャレンジするのか?
☆小さな共同体という灯火 – Individual small endeavors in Japan
☆Welcome to Taipei
☆躍動する島、海を渡った人々 – Smell of the street, tolerant Taiwan
☆台湾在住・栖来ひかりが見る社会
– どうして個人的なことは、政治的なものだと言えるのか?
☆時間をかけて根付かせる
– ロケ地まで巡る映画配給・A PEOPLE流、
「その土地の作家」とのお付き合い
☆「編集部メンバーが気に入ったアジア映画10作品
☆台北暮色
☆「シネマドリフター」リム・カーワイが映すアジアのアイデンティティ
– 交わらなかった人たちが教えてくれた無自覚なわたし
☆映画翻訳家に聞く「言葉」へのはからい
☆映画に見る昨今の香港アイデンティティ
– 変化を続ける都市はどこへ行くのか
☆映画批評家・夏目深雪に聞く、今語るべき2つのこと(後編)
– ユーラシア映画の現在地点~戦争と圧政を描く~
☆編集後記
☆地図にない街 – Thailand, how to draw the line
******
出版元:ANTENNA・PORTLA編集部
表記:日本語
H254mm×W182mm/176P/2022
*Overseas shipping OK
*Free shipping on orders over ¥ 10,800
in Japan only. Overseas shipping charges apply.