

多種多様な人々が行き交う複層的「都市」を舞台に、人々が出会い、「祭」を形づくる
街のメインストリート、大久保通りにある教会奥の会議室に、河内音頭が鳴り響く。生演奏でも上等なアンプセットでもなく、ありふれたCDラジカセの音源なのだが、そんなことは誰も気に留めない。
運営スタッフもお客も、飲食や物販の出店者も、その家族や友人も、教会近くの飲み屋の店主も、大久保の住民も「余所者」も、輪になって踊る。酔っ払ってげらげら笑いながら、思い思いの振り付けで、ばらばらに踊り歩く。カメラを回しながら踊りの輪に加わる学生の映像は、手振れによりほとんどまともに撮れてはいない。
南インド料理店の息子は、「着付け体験」コーナーで借りた女性物の着物姿のまま、クラブミュージックでも流れているかのように大きく腰を振って歩き、Sさんの手をとって踊っている。そのままSさんの小さな身体を抱きかかえてぐるっと回ったので、会場は歓声に包まれる。
お互いがどこから来たのか、なぜここに来たのか、その目的や理由は明確には語られないが、流れゆく者たちが緩やかに結びつき、特定の時間と空間を共有し、それぞれの日々の暮らしや活動の積み重ねと、この一日の「祭」運営の疲れを昇華させる。
こうして、「祭」のなかの「もうひとつの祭」が生起する。ハレの日の、わずかな時間と空間にのみ生起する、「流れる人々」の「祭」……。
(第四章「場所」をかちとる より)
著:阪口 毅
出版元:ナカニシヤ出版
表記:日本語
H210mm×W148mm/356P/2022
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