
アメリカ大統領選を左右する存在のひとつ、福音派 evangelicalと呼ばれるキリスト教右派はこれまで共和党の大票田として、同性婚、人工妊娠中絶、公立学校での祈りの実践、銃規制など文化的価値観のかかわる政治決定を左右してきた。
本書は、アメリカを舞台に1950年代からはじまった同性愛者の権利運動が、福音派を中心とする保守から激しい反動(バックラッシュ)を受けながらも、いかに自分たちの権利向上を訴え、2015年に同性婚(婚姻の平等)を実現したのか、その半世紀以上にわたるダイナミックな歴史を辿る。
過去に苛烈な同性愛者差別があった保守傾向の強いアメリカで、なぜ同性婚は実現しえたのか。本書ではこの問いに対し、「家族」という価値観に焦点を当て、保守の反動の中にある同性愛への忌避と恐怖の本質を浮き彫りにしつつ、同時に、社会が同性愛者の訴訟戦略に代表される権利運動をつうじて、彼らの権利保障の重要性を認識し、社会制度、法制度を大きく変えていく過程を忠実に描き出す。
終章では、アメリカの歴史をふまえて、同性婚の是非をめぐる議論がはじまったばかりの日本の現状や、現在、同性カップルがどのような不利益を被っているのか具体的に明らかにし、憲法や福祉の観点から同性婚を実現すべき根拠を説得的に提示する、時宜を得た挑戦的な一冊。
◎目次
第1章 ホモファイル運動のはじまり
同性愛差別のアメリカ史
ラヴェンダー狩りとホモファイル運動のはじまり
1969年のストーンウォール暴動──「アンタどうかしてるの? これは革命なのよ!」
初の同性婚訴訟──ベイカー対ネルソン判決(1970年)
オープンリー・ゲイの議員ハーヴェイ・ミルク
第2章 宗教右派のアンチ同性愛キャンペーン
宗教国家としてのアメリカ
1970年代、社会のリベラル化と宗教右派の台頭
政治勢力としての宗教右派
「子どもたちを守れ」キャンペーン
第3章 エイズ・パニックから婚姻防衛法へ
――1980年代からの変化
エイズ・パニックと差別の激化
ソドミー法かプライヴァシーの権利か――ボワーズ対ハードウィック判決(1986年)
同性婚は特別な権利?――コロラド州憲法修正案修正2
同性婚を認めないのは性差別か──ハワイ州ベアー対ルウィン判決(1993年)
動き出す宗教右派──第二次バックラッシュ
異性婚と子からなる家族こそが大事──家族の価値
婚姻は男女間の結びつき──婚姻防衛法
婚姻防衛法は合憲か?
第4章 本格化する同性婚訴訟
ソドミー法はプライヴァシー権侵害──ローレンス対テキサス判決(2003年)
婚姻する権利とは何か──判例と学説
マサチューセッツ州で全米初の同性婚──グッドリッジ対公衆衛生局判決(2003年)
ブッシュ大統領の「神聖な結婚」演説と婚姻許可証発行騒ぎ
連邦婚姻修正──「婚姻は男女間の結びつき」
第5章 なぜ同性婚は実現したのか
──オバマ政権での展開と世論の逆転
アメリカを訴えたウィンザー ──婚姻防衛法違憲判決(2013年)
カリフォルニア州憲法修正案、提案8号
同性婚をめぐる世論の逆転
全米レベルの同性婚の実現──オバーゲフェル判決の勝利(2015年)
なぜ同性婚は実現したのか──基本的権利をめぐるジレンマ
性的マイノリティのこれから
同性婚がもたらした効果
終章 日本で同性婚は実現するか?
同性パートナーシップ制度の広がり
同性カップルが被る様々な不利益
憲法からみた同性婚
憲法24条が保障する「婚姻の自由」
原理としての憲法24条
家族主義の日本こそ同性婚を認めるべきか──福祉国家レジームからの考察
日本の同性婚をめぐる動き
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◎著者プロフィール
小泉 明子(こいずみ あきこ)
新潟大学教育学部准教授。専門は法社会学。京都大学法学研究科博士後期課程修了(博士(法学))。京都女子大学非常勤講師、京都大学法学研究科助教などを経て、2012年9月より現職。主な著作に、「「家族の価値」が意味するもの」(『変革のカギとしてのジェンダー』ミネルヴァ書房、2015年)、「婚姻防衛法の検討」(『法の観察』法律文化社、2014年)など。
著者:小泉明子
出版元:慶應義塾大学出版会
表記:日本語
H190mm×W128mm/186P/2020
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