アイドル/ファンを学問する
メディア上には多種多様なアイドルにまつわる情報、コンテンツがあふれ、好むと好まざるとにかかわらず私たちはアイドルと接しながら日々の生活を送っているのではないだろうか。特に、情報通信技術の進展により、インターネットに常時接続できる環境が整ったことがそうした状況を後押しし、アイドルの情報やコンテンツを媒介する空間、流通させるプラットフォームはますます拡大し、アイドルの情報やコンテンツは遍在していっている。
たとえば、アイドルが出演するドラマやバラエティ、歌手であれば歌番組がテレビで放送されたり、雑誌の表紙を飾ったりとマス・メディアに登場することはもちろん、TwitterやInstagramといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でアイドルメンバー個人やグループがアカウントをもって情報を発信していたり、YouTube等の動画配信サービスを使って動画コンテンツが配信されたり、SHOWROOM等の主にはスマートフォン向けアプリでライブ配信を行ったり、とソーシャル・メディアを活用することが一般的になっている様子は容易に想像できるだろう。[…]
それは、ブームや流行といった一時的な現象として片づけられるものではなく、社会やそこに属する人びとのコミュニケーションのあり方、ひいては、物の考え方や生き方にまで深く/または少なからず影響を及ぼすような一つの文化として「アイドル」というものを捉えることが可能であることを意味している。これを「アイドル文化」としよう。
以上のように、アイドルは、メディア空間、プラットフォームの広がりとともに、ファンのみならず多くの人びととの関わりのなかで、また、メディアの発達と不可分に結びつきながら存在感を強めている。ある種のメディア文化としてアイドルが形作られていっているとも言える。[…]
本書は、「アイドル研究」の初学者やこれから従事する者たち(特に大学院や学部の学生)に向けて、「アイドル」を研究するための手引書となるような、また、自身の研究を鼓舞する一冊として位置づけられるよう構成している。そのために論考の他に研究の最前線やアイドルをめぐる最新の動向を綴る「コラム」も設けた。
論じる対象やその方法は多様だが、当たり前に、また心地よいエンターテインメントとして受容されがちなアイドルのパフォーマンスを、研究対象としてみることで、ちょっと立ち止まって相対化する“気づき"を提供してくれる論考群が採収されている。
「アイドル・スタディーズ」へようこそ。快楽の扉がここに開かれる。
◎目 次
序 章 アイドル・スタディーズへの招待 〔田島悠来〕
第I部 アイドル研究の展開
第1章 「アイドル」はどのように論じられてきたのか 〔田島悠来〕
コラム1 「アイドル」の見方とその研究方法 〔田島悠来〕
第2章 アイドルは労働者なのか ――「好きなこと」を「やらせてもらっている」という語りから問う 〔上岡磨奈〕
第3章 アイドルが見せる「夢」 ――アイドルの感情労働 〔石井純哉〕
コラム2 自分の環境をもとに研究活動をデザインすること 〔石井純哉〕
第II部 アイドルのジェンダー/セクシュアリティ
第4章 異性愛規範と「恋愛禁止」はいかに問い直されるか 〔香月孝史〕
コラム3 アイドルに投影されるもの 〔香月孝史〕
第5章 性を装うアイドル ――演じる/演じない手段として 〔上岡磨奈〕
第6章 アイドル楽曲の鑑賞と日常美学 ――自己啓発という観点から 〔青田麻未〕
コラム4 芸術と日常のあいだで 〔青田麻未〕
第III部 ファン研究の射程
第7章 語る方法としてのアイドル関連同人誌 〔関根禎嘉〕
第8章 アイドル文化におけるチェキ論 ――関係性を写し出すメディアとして 〔上岡磨奈〕
コラム5 新型コロナウイルスとアイドル産業 〔上岡磨奈〕
第9章 ファンの「心の管理」 ――ジャニーズJr.ファンの実践にみるファンの「感情管理/感情労働」 〔大尾侑子〕
第10章 台湾ジャニーズファンへのまなざし ――「日本時間」の文化実践とファン・アイデンティティ 〔陳 怡禎〕
第IV部 アイドル研究領域の拡大
第11章 日本文化としてのアイドル ――インドネシアの動向を事例に 〔上岡磨奈〕
コラム6 JKT48を好きになってみた 〔上岡磨奈〕
第12章 「異なる文化圏のアイドル」はいかに評価されるか ――日韓合同K-POPオーディション番組『PRODUCE 48』を事例として 〔松本友也〕
コラム7 声優とアイドル 〔中村香住〕
第13章 台湾社会運動の場における「アイドル」文化現象 〔陳 怡禎〕
コラム8 アイドル・アーカイブ試論 ――アイドル・オントロジー構築に向けて 〔関根禎嘉〕
あとがき 〔田島悠来〕
編集:田島 悠来
出版元:明石書店
表記:日本語
H210mm×W148mm/224P/2022
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