

複数形の、台湾文学。
恋愛、結婚、家族、セクシュアリティ、エスニシティ……
多元的なアイデンティティが絡み合う現代台湾が立ち現れる。
台湾の代表的なクィア作家・陳雪による表題作。恋愛結婚と出産を経て、幸せな家庭を手にしたはずの主人公が、「よき娘」「よき妻」を演じてきた人形のような過去に別れを告げ、同性への愛に生きる決心をする……その後の台湾レズビアン文学に大きな影響を与えた表題作「蝶のしるし」ほか、女性作家の作品全八篇を収録する小説集。
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1:「コーンスープ」江鵝 著
2020年の春、新型コロナウィルスが世界中に大流行しているさなか、男性主人公の張さんは恋人の白さんにマスクを分けるのをしぶったのがきっかけで、突然白さんから別れを告げられる。別れ際に白さんが作ったコーンスープは2021年春まで張さんの冷蔵庫の中に放置されたまま腐っていた。
2:「別の生活」章緣 著
上海で仕事をしている台湾出身の独身キャリアウーマンが、出張のため上海から乗車した高鉄(新幹線)で、二人の子供を連れた若い母親と出会う。主人公は急に自分も子どものいる「別の生活」をしてみたいと心が動かされるが、母親が突然娘をひとり残したまま姿を消したことから、彼女の夢想は恐怖に変わる。
3:「私のvuvu」ラムル・パカウヤン 著
5歳の安妮(アンニ)はパイワン族とアミ族の血を受けた女の子。母親が留守をする間、パイワン族のvuvu(外祖母)が彼女の世話をするために家にやって来た。だが言葉と文化の違いから、学校でも家でも泣くに泣けず笑うに笑えない出来事が起こる。
4:「静まれ、肥満」盧慧心 著
コンビニでアルバイトをしている肥満にストップのかからない女性が、野球のボールで窓を割られたことがきっかけで高校の男子生徒と知り合いになり、その交流の中で自分の弟と継母のことを思いだす。
5:「モニークの日記」平路 著
娘のモニーク殺害の容疑をかけられた欣如(シンルー)は、身の潔白を証明するために、娘の洋服を買ったことから話し始める。その饒舌な語りから、欣如は幼少期に受けた傷によってある妄想に取りつかれていることが徐々にわかってくる。
6:「冷蔵庫」柯裕棻 著
「僕」の恋人のミカンは冷蔵庫が好きで、僕の浮気のせいなのかそれとも冷蔵庫のブーンブーンという騒音のせいなのか、ある日突然ミカンは自分を冷蔵庫の中に閉じ込めてしまった。
7:「色魔の娘」張亦絢 著
主人公は父親から性的被害を受けるが、彼女を敵視する母親は守ってくれず、とうとう家をとびだして、レズビアンの世界で心身の解放を得る。
8:「蝶のしるし」陳雪 著
恋愛結婚をして、子どもが生まれ、幸せな家庭を手にしたはずの主人公が、「よき娘」「よき妻」を演じてきた人形のような過去に別れを告げて、同性への愛に生きる決心をする。
「蝶のしるし」は1990年代半ばに書かれ、その後の台湾レズビアン文学に大きな影響を与えた陳雪の代表作の一つである。2004年に香港の映画監督・麥婉欣(ヤンヤン・マク)によって『蝴蝶』のタイトルで映画化されている。
〜本文解説より
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著者:江鵝、 章緣、ラムル・パカウヤン
盧慧心、平路、柯裕棻、張亦絢、陳雪
日本語訳: 白水紀子
編集:呉佩珍、白水紀子、山口守
出版元:作品社
表記:日本語
H192mm×W135mm/273P/並製/2021
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